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Project of Gene Protection for Children



際の防御力データ

データは豊富にある
     

 栄養成分のがんの抑制効果については多くの調査データがあります。がんという結果が大きな関心事だからです。
 しかし、がんと栄養摂取に関するデータはいわば状況証拠的なものです。理由はがんの発生やがん死亡には原因となる突然変異の増加以外の多くの因子が強く関与しているからです。免疫機能などがわかりやすい例でしょう。
 さらに、私たちの目的は、健康生活の勧めではありません。日常生活における突然変異の発生を抑制することが目的です。それも定量的に評価できることが重要なのです。

  1. データ

 微量栄養成分の摂取と突然変異の発生に関する調査データは多いのですが、日常の食生活との関連を示すデータは限られます。 その中で、重要なデータが二つあります。(TL、MN)いずれもがんの指標となる。これらはともに食生活の調査。したがって、食事からの摂取。MNは一般人。
どちらも多く摂取する群は少ない群に比べて有意に低下している。

  1. パイロット TLデータ (max?70%低減)
  2. オーストラリア MNデータ (max?70%g低減)

 これらの調査からわかる重要な内容は、FVの摂取は、サプリメントではなく食事からおこなっていること、そして、何年にもわたる食生活が効果を生み出していることです。

 

パイロットデータ

パイロットは健康集団
 誰でも突然変異は増えつづけているのですが、人によって増えるペースは大きく異なります。増え方が早い場合には、がんになる可能性が大きいと言ってもいいでしょう。

 逆に遅い人々もいます。良い例は、航空機パイロットなどの コックピット(操縦室)乗務員 操縦士、副操縦士、航空機関士、航空通信士、航空士など、操縦室に乗務する技術者の総称。現在は、操縦士と副操縦士の2名だけの乗務が多いが、かつては数名が乗務した。 です。 (ここではパイロットと呼びます)

 パイロットは、一般人よりはるかに健康な人々です。
 宇宙からの放射線(宇宙線)に被ばくしているせいでパイロットは早死にするという根拠のない俗説がありますが、本当はがん死亡率やその他の死亡率が一般人より大幅に低い、非常に健康な人々なのです。

 

最近発表されたパイロットの追跡調査の結果では、
(Yong,LC.Am.J.Ind.Med.57:906-914,2014)
一般人に比較して、
すべての死因による 0.58
全がん       0.69

 全がん0.69、主な部位のがんで、食道がん0.56、胃がん0.39、肺がん0.50、腎臓がん0.53などとなっています。


 詳細はリンクでごらんください。

パイロット健康調査


 がんに関しては、IARCが発表している野菜果物の効果があると考えられる部位と一致しているのは偶然ではないのかもしれません。(大腸がん、肝臓がんも有意でないが、低下しています)

 とにかく、どの観点からみても、パイロットは死亡率が低いのです。このように死亡率が低い理由は、健全なライフスタイルです。
 人々の命を預かるという仕事ですから、体もメンタルも健全でなければなりません。そのために医療検査を厳密に受けていますし、もちろん健康意識が高いです。生活水準が高く、いろいろな意味で健全な良い生活を送ることが可能ですし、そうしています。
 こうした条件が総合的に死亡率を低くしているのです。

 91%のパイロットが生涯で50mSv以下の被ばくをしています。普通なら一般人より がんになりやすいと言えますが、健康維持の努力というプラスが被ばくによるマイナスを大きく凌いでいるために、結果としてがんをはじめとするほとんどの原因による死亡率が低く保たれているのです。

これは、少しなら被ばくすることが健康にいい、というような話ではありません。生物学的な根拠のある内容です。

 「ちゃんとした仕事に就いている人は、生活が健全になるため、一般大衆の平均よりは死亡率などが低くなる」という 「健康労働者効果」疫学調査では、ある仕事をしている人々(調査群)が一般大衆(対照群)より死亡率などが低くなることがあるが、その理由の一つとして、仕事をしている人は一般大衆より基本的に健康である、ということが考えられる。には違いありませんが、パイロットの場合は、それを遥かに超えて、その生活じたいが研究の対象となるぐらいに生物学的に確かな理由がある生活をし、その結果健康なのです。
 なによりも、パイロットはそれを努力で手に入れているというところがすばらしいですね。誰でもこうなれるのです。

 これらの結果から、健康になるにはパイロットを見習えばいいというのも確かですが、私たちの目的は、遺伝子の突然変異を減らすことです。
 では、パイロットの遺伝子の突然変異に関するデータの内容を見てみましょう。

 

パイロットの突然変異は少ない
 リンパ球の突然変異が調査されました。
 ここでは放射線によってできやすいDNAの二本鎖切断によってできる染色体のTL(translocation 転座)という突然変異を調べています。

染色体転座の発生


 このTLというのは、以前にも出てきましたが、私たちが普通に生活しているだけでも増えていきます。私たちの普通の日常生活で突然変異が増えていくという証拠のひとつです。
 それと同時にこのTLという突然変異は、放射線被ばくによる代表的な突然変異のひとつとして有名です。そのため、ヒトの血液中のTLの量を測定することで、被ばく線量を推定できるとされています。
 パイロットは1万メートルの高度を飛行するために、慢性的に低放射線の被ばくをする人々なのです。パイロットのがん調査や染色体の調査は、主に被ばくによる影響を検討するためにおこなわれます。

  一般人のTL=0.5~0.7 /100CE(細胞100個分の染色体あたり)のところ、パイロット集団は、0.37です。(Yong, Occup Environ Med. 2009 January ; 66(1): 56-62)

 パイロットの突然変異の数は、一般の人々に比べて6割ぐらいに抑えられています。(対照群の大学教員も同じくらいに低いのですが、パイロットは、「その他に宇宙線被ばくもあるにもかかわらず」低く抑えられているのです。)
 これはパイロットの健康的な日常生活を反映しているものです。
 飛行に必要な健全な状態を維持する努力によって、「遺伝子の突然変異を低く抑える」結果にもなっていると言えます。


 次に、内容をもう少し詳しく見てみましょう。
 パイロットは全体として、がんも少なく、突然変異も少ないのですが、みんな同じという訳ではありません。その中では、突然変異の多い少ないはあります。
 何がこの差を生み出しているのでしょうか?

 食生活が突然変異の数に影響するかどうかが調査されました。

 

パイロットの食生活が鍵
 何を食べている人が、突然変異が多く、何を食べている人が少ないのかが詳しく調べられました。
(Yong Am J Clin Nutr 2009;90:1402?10.) dietary
(Yong British Journal of Nutrition (2011), 105, 496?505) niacin

 結果はこのようになりました。



 ビタミンC、ビタミンE、カロテン類、そしてナイアシン、加工肉赤肉摂取、がそれぞれ突然変異の発生の抑制に大きな影響を及ぼしていることがわかりました。
 これらの栄養素をすべて高摂取する生活を送った場合には、低摂取の場合に比べて、TLの蓄積が最大1/4近くにまで低下しました。
 この調査は食生活が突然変異の発生に与える影響の大きさを示しています。 つまり、食生活によって、突然変異を1/4に低下させることも可能なのです!


 これまで、様々な基礎実験からいろいろな栄養素が突然変異を抑制することは示されていましたが、実際のヒトのデータで、それも「日常的に被ばくをしている人々」のデータで示されたのははじめてでした。


パイロットのデータが私たちに示しているのは、

「日常的に低線量を被ばくしている人々でも、日常の食生活の内容によって、突然変異の増え方をコントロールすることができる。」

ということなのです。


一般人も食生活が重要
 ここで、このデータを裏付けるようなもう一つの食生活データを示しましょう。これはオーストラリアの一般の人々のデータです。食事から摂取する栄養素とリンパ球の突然変異の発生の関係です。この場合は、TLではなく、微小核または小核という細胞核の断片を測定しています。

微小核の発生


 

 いろいろな栄養素の作用を測定していますが、その中でこれらの栄養素に有意な効果が見られました。この調査も上のパイロットの調査と同じ「通常の食事内容を記録する」という手法でおこなっていますが、短い期間でおこなわれる通常の大量投与実験では検出できない、何年何十年もの間の現実の「日常的な摂取の作用」を見ることができる理想的な調査のひとつかも知れません。

 

日常の食生活データの重要性

日常のデータが重要

 これらは、人々の日常的な食事内容から、栄養素の作用を検出する手法によって得られたデータです。栄養素や抗酸化物質によるDNA修復機能に対する効果については、多くの研究データがあります。それらによって私たちは食品に含まれる微量栄養素の遺伝子防御の可能性の知見を得る事ができたのですが、実際には、きれいな効果を示すデータは多いわけではありません。それにもかかわらず、研究者は明確な防御作用があると考えています。


 なぜ、必ずしもいつでも効果があるわけではないのか?
 私たちの体は実験ですぐに結果がでるようなものではない、というのが第一の理由だと思われます。
 一般には標準の摂取量を遥かに超える量の投与をして一定期間の効果を見ます。しかし、どんな機能でもそれを向上させるには、その他の無数の機能や生体物質の働きが必要になります。全体としてバランスが取れて初めて定常的な機能の活性化が達成できるのです。これには月〜年単位の時間がかかります。こうした調査は実験では難しく、日常生活に組み込まれた調査が必要になります。

 もう一つの理由は、調査は科学的先進国で行われるためでしょう。先進国では栄養状況がよく平均摂取量はかなり高くなる一方、栄養素の効果には必ず摂取量の上限がありますので、非常に狭い幅の中での効果をみることになります。 したがって、もし日常の食材の摂取による栄養素の効果を見るためには、非常に長い期間の調査が必要になるのです。さらに、がんを含めて遺伝子の突然変異の問題に介入するというのは人生そのものに介入することです。つまり、これは実験ではなく、生活そのものでなければなりません。

このプログラムを有効にするための条件
1) いろいろな防御成分ごとの突然変異(TL)低減効果を評価していますが、サプリメントではありませんので、単独の栄養素の影響ではなく、その他の成分や項目化されていないいろいろな因子の作用効果も含まれていることは確かです。
 したがって、特定の防御成分ではなく、これらの防御成分の全体的な良い摂取を満たした場合にこのような効果が得られるだろうと考えられます。

2) パイロットは一般平均より健康状態、食事内容、いずれも良い人々です。防御機能はこれらの防御成分だけで成り立っている訳はありません。防御成分以外の栄養成分も含めて、からだの代謝のしくみじたいが健全に機能して初めて防御力を高めることができているのです。
 全体としての良い健康状態と栄養状態があってはじめてこのような効果が期待できます。

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