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Project of Gene Protection for Children




響のコントロール

リスクは消せる
     

被ばくするとどこかの遺伝子に突然変異ができる 可能性被ばくリスクや影響の話で、よく出てくる「可能性がある」という言葉の意味。「被ばくすると必ず突然変異ができるわけではないが、何回かに1回はできるだろう」という意味です。 があります。

「がんになる可能性を決めるのは、ある細胞の突然変異の合計数です。生まれる子供の遺伝病の可能性を決めるのは、親からもらう突然変異の合計数です。」

 被ばくをすると、全体の合計数が増えて、この「増えた分」だけリスクが上がります。
  私たちは、この「増えた分」を、なんとかしたいのです。

 私たちはこの問題を具体的に現実に解決しなければなりません。ここから、私たちが実行できるような具体的なプログラムを考えていきましょう。


 

私たちの遺伝子の現実と被ばく

 先に私たちの遺伝子の現実を見ましたが、ここではそれが具体的なプログラムでどのように表現されるのかを考えましょう。


 私たちは毎日いろいろなものを食べいろいろな環境で生き、いろいろなことをします。その結果、いろいろな変異原を体に受けたり、取り入れたりします。
 例えばこんな感じです。(図1)


 私たちの現実です。

 ここにはもちろん自然放射線も含まれています。

 これらはすべて遺伝子を傷つけます。修復が行なわれ、失敗すると突然変異ができます。
 毎日このようなことが起こっています。遺伝子の突然変異はもとには戻せないので、少しずつ蓄積して行き、図のように、生まれてから死ぬまで増え続けることになります。

 1が私たちの普通の(一般平均の)人々の突然変異の増える様子です。どの組織の細胞かによって違いはあるのですが、大まかには私たちの体の細胞の突然変異はみんなこんな感じで増えていきます。
 40歳くらいまでは、割と直線的ですが、中年以降は上にカーブして行きます。これは突然変異が増えるペースが早くなるということです。
 後で述べるように、突然変異は、発がん物質の攻撃に対して、防御機能が遺伝子を守るという闘いの結果です。完璧に守ることができないために、こうして少しずつ増えて行くのです。
 その増え方が中年以降は早くなるというのは、発がん物質の量が多くなるからではなく、防御が弱くなるからです。

突然変異と病気のタイミング
 さて、このような私たちの遺伝子の現実は病気にどのように関係しているのでしょうか?
 本人自身の病気に関しては、「病気が起こりがちな時期までにどれくらいの突然変異を蓄積しているか」が問題です(図1-2)。


 がんの場合には、だいたい60歳前後から起こりやすくなります。この頃になると、それまでの人生で蓄積してきた突然変異(この場合には、がん遺伝子とがん抑制遺伝子の突然変異)のうちがんに必要なものが揃って、がん細胞がうまれることが多くなるからです。
 この頃までに何かの理由で合計の突然変異が普通より増えている場合には、その分がん細胞が生まれやすくなります

 したがって、がんを考える場合には、がんになるまで(Bの年齢まで)の突然変異がどれくらいあるかが問題になります。

 

 遺伝的影響の場合は、受精時に親の遺伝子を子供(受精卵)に渡しますので、その時までに合計の突然変異が増えていると、子供に余計に突然変異を渡すことになります。それが遺伝病遺伝子の突然変異かどうかは分かりませんが、突然変異が多い方が遺伝病遺伝子が含まれる確率が高くなります。
 「子供を生む時までにどれくらい突然変異が蓄積しているか」が問題になります。

 したがって、遺伝的影響を考える場合には、一般的にはAの頃までに突然変異が増えていないことが望ましいでしょう。(もちろん結婚して子供を産むまでということなので、ひとりひとり異なっています。)

 

被ばくすると  
 さて、このような私たちの人生で、あるとき被ばくします。例えば、16歳の頃に被ばくしたとします。
 被ばくをした場合には、2のようになります(図2)。

 

 被ばくによって突然変異が増えてしまったために少し上の方にずれます。
 この図は蓄積を表していますから、上にずれたままその後の人生を進んで行きます。被ばくしない一般平均の人々のラインと平行して進んで行きます。

 あなたのイメージもこんな感じではありませんか?


 この二つラインの傾きは突然変異の増加するペースを表しています。平行しているのは、同じペースで人生が進んでいくという意味です。なぜなら、被ばくしたとしても、普通はその後の人生は被ばく前と変わりません。
 被ばくした人もしない人も、普通の日常生活を送りますので、突然変異の増えるペースは同じなのです。

 この二つのラインの「差」が被ばくの影響です。具体的には「突然変異の合計の差」です。

 被ばくするとそれをその後ずっと背負って行くことになる、というあなたの今のイメージ通りです。
 一般平均との差がある限り、リスクを背負っていることになります。この差が被ばくのあかしです。 この差がある限り、被ばくした人です。

 

 ここで、放射線から離れて、少し見方を変えてみましょう。
 私たちの生活は突然変異を起こすようなもので満ちあふれています。
 例えば、喫煙の習慣があれば、肺胞上皮細胞の突然変異はこの図のようになるでしょう(図3(1))


 また、若気の至りで暴飲暴食が過ぎると、食道の上皮細胞の状況はこのようになるかもしれません(図3(2))。


 低線量の放射線の作用の図と同じです。

 被ばくのことばかり注目しがちですが、現実には突然変異を作るものはたくさんあり、それぞれがこのように作用しています。そんな生活を私たちは送っているのだということ、放射線はその中の一つにすぎないということを頭においてください。青色のベースラインの部分はそんな生活の結果でできているのです。

 このように、私たちの基本として、日常のいろいろな発がん物質が、体のいろいろな細胞の遺伝子に突然変異を作り続けているのです。
 突然変異の発生という意味では、放射線だけを問題にするのは、この圧倒的に大きな部分を占めている基本部分の増加(青色線)が抜け落ちています。


 ある人は被ばくによって突然変異が少し増えました。しかし、別の人はタバコによって肺胞上皮細胞をはじめ体のいろいろな細胞の突然変異が増えているかも知れません。
 また別の人は焼き肉を頻繁に食べるため大腸の上皮細胞の突然変異が増えています。ひとそれぞれいろいろな発がん物質を取り込んでしまい、いろいろな細胞に突然変異ができてしまいます。
 これらの場合には、それぞれの細胞では、放射線被ばくと同じように一般平均より突然変異の増えるペースが早いでしょう。
 放射線には注目が集まりますが、生物学的には他の発がん物質でも全く同じことが起こるのです。
 そのために、被ばくしなくても、がんになったりならなかったりするのではありませんか?

 

 一般に、発がん物質の作用する組織は、決まっています。タバコは肺が主体でその他数多く。アルコールは口腔、食道、大腸、肝臓など。食品添加物の硝酸塩やピロリ菌は胃、紫外線は皮膚。
 医療被ばくのような部分被ばくでは、他の発がん物質と同様に照射部位に限られ、それぞれの組織細胞でおこなうことは他の発がん物質と同じなのです。

 このようなことを頭において、被ばくによる増加分をなくすことを考えましょう。どうすればこのように上にシフトしてしまったラインをもとのラインに戻すことができるかです。

 

 突然変異の増加分を取り消す

 下の図は、先ほどの図2です。
 私たちが被ばくすると2のラインをたどるのですが、1にせよ、2にせよ、右上がりです。これは私たちの体の突然変異は一生の間増え続けているという現実を示しています。
 そして人生の途中で被ばくをします。

 16歳で被ばくした人の30歳の時点で考えましょう。 その時から、あなたの突然変異はピンクのラインをたどります。
 被ばくした場合の突然変異の量は、被ばくしない一般平均(ブルーライン)の場合より上にあります。
 つまり、“同年齢で比較すると”、ラインは上にあり、一般平均より突然変異が増えているということです(図4(1))。当然ですね、被ばくしたのですから。

 ところが、横方向に見ていき、“突然変異の蓄積量で比較すると”、あなたの現在の突然変異の量(ピンク30歳)は、被ばくしない一般平均の人々の35歳の時の量と同じであることがわかります(図4(2))。


 あなたと同じ歳の被ばくしない一般平均の人々も、5年後には、今のあなたの量になるのです。年々増えているのですから。
 つまり、被ばくするということは、5年分の突然変異を“先取り”するようなものです。

これは説明のための図です。被ばくすると必ず5年分になるという訳ではありません。

 被ばくするというのは、普通の人々とは別の世界に行くのでも、特別なことが起こるのでもなく、「何歳か年上の一般の人々の状態になる」ということです。
 いずれあなたと同じ歳の一般の人々もそこにいくのですが、あなたは先にそこに到着してしまったのです。

 

 みんな突然変異が増えて行きます。
 その中で一時的に被ばくすると、少し先にジャンプするようなものです。
 慢性的に被ばくが続くと、増え方(ラインの傾き)が少し早くなるので、同年齢の一般の人々より、少しペースが早くなり、差ができて行きます。

 私たちは年齢に伴ってしわが増えます。老化やその他のいろいろな原因で皮膚幹細胞(皮膚細胞を生み出す細胞)の分裂速度が低下し、皮膚の代謝が低下するためです。しわの増加にも平均的なペースがあるでしょう。もし、太陽光に当たることが多い場合には、紫外線による傷害が加わって、しわを増やしてしまいます。普通より「何年分か早く」しわが増えることになります。
 同じ話ですね。紫外線はなるほどと納得しやすいでしょうが、放射線の場合も同じなのです。

 このようなことが言えるのは、放射線と日常生活の突然変異は合計で考えればいいからなのです。
 その他の発がん物質でも全く同じような図を描くことができるのはすでにみました。(図3(1)、(2))

 

 突然変異のベースライン
 図のベースラインの青い線は具体的に何を意味しているのでしょうか?

 普通の人の普通の日常生活によってできる突然変異の増加の様子を示していますね。
 被ばくなどしなくても、毎日普通に暮らしているだけで、このように突然変異が増えて行っているということを示しています。 そして、傾きはその増えるペースですね。

 この増加の傾きというのは、ほぼ毎日の生活によって決まります。日常生活が傾きに反映されています。
 被ばくして2になっても、その後のラインの傾きはベースラインの傾きと同じです。被ばくしても、それ以外は普通の人です。普通の生活をして行くでしょう。被ばくした人もしない人も同じような生活をし、同じような傾きで生きて行きます。

 しかし、それは全体平均としてみれば、ということであって、一人一人は微妙に違っているでしょう。生活が違うからです。
 どんなところで生き、何を食べ、どんな生活をしているのか、つまり“日常生活の内容”がベースラインの傾き、つまり突然変異のできるペースを決めているのです。
 それは逆に、日常生活によって傾きが変わる、変えることができるということでもあるのです。

 もしそうなら、次の図のようなこともあり得るでしょう。(図6)

 


 あなたは普通の生活をしてきたので1のラインでしたが、被ばくをしたために2になりました。このまま一般平均1と同じ傾きで行くなら、いつまでも2のラインです。一般平均1との差はそのままです。
 この差がある限り、あなたは“被ばくした人”です。

 しかし、あるときから、「傾きを少しだけ緩やかにして」、3の傾きで進むなら、そのうちに1と交差します。
 つまり、X年後には被ばく時にできた差がなくなります。
 つまり、“被ばくした人ではなくなる”のです!

 簡単な算数ですが、生物学的な論理なのです。

 

 「傾きを緩やかにする」というのは、突然変異ができるペース(増えるペース)を遅くするということですね。
 たとえ被ばくをしても、その後の日常生活の突然変異ができるペースを遅くすることができれば、いつかは被ばくの作用を打ち消すことができるということを示しているのではありませんか?

 もとの被ばくしない場合のラインに戻すには、
       「突然変異ができるペースを遅くすればいい」
ことがわかりました。
もとのラインに戻るというのは、被ばくによって増えた分がなくなるということです。つまり、被ばくの影響が消し去られたということですね。

 

 これが、被ばくによる突然変異の増加分を消し去る方法です。
 ベースラインの傾きを変えることで、過去の被ばくの事実を、これからの生活の中で少しずつ消して行けるのです。

 

この論理は、

「被ばくの突然変異も日常生活の突然変異も一緒に考えていい。」
「病気や遺伝的影響の可能性(リスク)は、突然変異の合計数で決まる。」
「突然変異の増えるペースは日常生活を反映している。」

という事実で成り立っています。

「被ばくによって増えた分を、日常生活から減らすことができる」

ということです。


 遺伝子を子供に渡す前に、突然変異の合計をもとにもどしておけば、遺伝病のリスクは平均並み(または、被ばくしない場合の自分並み)に戻ります。
 がんができるまでに突然変異の合計をもとにもどしておけば、がんのリスクは平均並みに戻ります。

 つまり、増えていたはずの被ばくリスクはなくなったのです!

 

 しかし、こんな疑問もわいてくるかも知れません。
「被ばくによってある重要な遺伝子に突然変異ができてしまった場合には、日常生活から同じ数を減らしても、内容が違うのではありませんか?」
 答えは、
 その可能性はありますが、逆の可能性も同じだけあるのです。放射線でできた突然変異より重要な(危険な)突然変異を将来減らす可能性もあるのです。 つまり、突然変異の内容は考慮する必要がないのです。
 放射線によってどんな遺伝子に突然変異ができたのかは分かりません。また、減らすのがどんな遺伝子の突然変異なのかも分かりません。したがって、どちらがより重要かという議論はできないのです。このような場合には、確率的に考えます。
 そもそも、私たちが心配しているがんや病気のリスク(可能性)というのは、確率的な可能性ではありませんか?内容ではなく、数の問題ですね。ですから、確率的なリスクは確率的に減らすことができればいいのです。

 何より、突然変異の増加ペースを遅くすることは、確実にあなたの遺伝子を守ることになります。
 ”もっと危険な”突然変異ができるのを、あなたの努力で未然に防ぐことになるのかも知れません。

 

 さて、このような論理、生物学的なしくみを利用することで、不可能に見えることが可能になることが分かってきました。
 放射線の作用は特別で何も太刀打ちできないと考えてきましたが、生物学はいろいろなことを明らかにしつつあります。日常生活の作用は、実は放射線と同じ土俵にあり、場合によっては生物学的に介入することで十分に打ち負かすことができるのです。


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