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Project for Gene Protection for Children




伝子防御が可能になるしくみ

何とかする
   

たとえ運が悪くても何とかする

 検査CTなどの医療被ばくは、健康上の必要があっての被ばくですから、納得はできるのですが、それでもリスクが気にならない訳ではないでしょう。
 リスク(可能性)は小さいのですが、影響がゼロだというのでなければ、どんなに小さな可能性でも同じです。自分の子供には影響が出ないという保証はないのですから、“もし子供に影響があったら”と考えざるをえません。

 生物学的なしくみという意味では、たいていの子供は検査程度被ばくによって突然変異はできていないと思われます。できてしまった子供の中でも、ほとんどの子供はそれは影響にはなりません。つまり、ほとんどの子供には実際にはリスクはありませんが、
 突然変異ができてしまい、その上条件が揃っているごく少数の子供には影響が出るのです。
 数字上の可能性は小さいでしょう。しかし、もし突然変異ができてしまっていたら、その条件が揃っていたら、と考えてしまいます。セーフをどんなに信じようとしても無理です。アウトの可能性を消せない限り心の平和は訪れません。

 そうです。私たちは、
 「アウトの可能性をゼロにしたい。たとえアウトでも、どんな場合でも、子供に影響(がんや障害、異常など)が出ないようにしたい!」のです。たとえ、突然変異ができてしまっても、それを何とかしなければなりません。


 このプロジェクトは、”もし運が良かったら” のプロジェクトではありません。”たとえ運が悪くても”のプロジェクトです。
 たとえ細胞レベルで不運が起こっても、それが現実の問題となる前に、何とかするのがこのプロジェクトなのです。

   

影響の意味と現れ方

被ばく影響が出るという意味

 被ばくした場合、それによって突然変異ができる場合もできない場合もありますが、「突然変異ができるかも知れない」という可能性が生じます。これが被ばく影響の第一歩です。
 この可能性というのは「ある割合で起こる」という意味です。

 ここでいう突然変異は「被ばくによってできる突然変異」です。
 実際には、被ばくとは関係なく、普通の日常生活で突然変異はできていますし、そのせいで私たちは病気になっています。被ばくの影響や可能性というのは、このような普通に起こるものに「上乗せ」される部分を言います。
 問題になるのは、この足されて増えてしまった分なのです。

 次に、もし運悪く突然変異ができても、それが必ず将来のがんや病気、遺伝的影響に結びつくとは限りませんが、「その突然変異が病気に結びつくかも知れない」という可能性が生じます。
 つまり、被ばくががんや遺伝的影響に結びつくのは、これらの二つの可能性がともに現実のものとなった場合です。
 私たちが被ばく影響のリスクと呼ぶのは、こうして最終的に問題が出る割合のことです。

 これまでは、「影響があるかどうかわからない。全くないかもしれない。」という意味が含まれていました。しかし、いまでは影響があることは明らかになっていますので、「全体で見れば、確実に問題が発生する。しかし、個人で見ればそれが自分に起こるかどうかはわからない。」という意味の可能性です。

 皆さんのお子さんの場合、被ばく影響はがんと遺伝的影響ですが、ともに遺伝子の突然変異から始まります。

 放射線被ばくはどんな放射線をどのようにどれだけ受けたかによって、いろいろな影響が考えられますが、医療検査の場合に限ると、可能性のある影響はがんに限られます。その他の影響は起こりません。生殖細胞は被ばくしませんので、遺伝的影響はありません。詳しくはリンクから。

 問題は遺伝子の突然変異です。

 

被ばく影響は突然変異から

 被ばくするとどこかの遺伝子に突然変異ができる 可能性被ばくリスクや影響の話で、よく出てくる「可能性がある」という言葉の意味。「被ばくすると必ず突然変異ができるわけではないが、何回かに1回はできるだろう」という意味です。 があります。
 ヒトのDNAで、遺伝子を含む重要な部分は全体の3%程度ですから、突然変異ができる場合も、たいていはDNAの中の問題にならない場所にできますが、中には運悪く、病気の原因になるような重要な遺伝子にできることがあります。
 その場合将来病気になる可能性が増えます。私たちはこれが怖いわけです。


 さて、このように言うとき、私たちは、被ばくによってできた ”その突然変異” が、がんや遺伝的な問題をひき起こすようなイメージを持っています。それが病気として現れないかと心配するのです。
 「あの被ばくさえなければ、病気にならなかったに違いない。」などと考えてしまうのですが・・・

皆さんが持っている突然変異のイメージ、

「被ばくによって突然変異ができてしまったかもしれない。被ばくしなければ、遺伝子には問題はなかったのに・・・」

というイメージは、間違っています。


 私たちは、すでに体中の細胞の遺伝子に数多くの突然変異を持っています。重要な遺伝子にもたくさん突然変異ができています。それによって病気にもなるし、がんになるのです。
 普通に生活していることですでに遺伝子の突然変異は発生し続けています。そもそも、私たちが生まれた時にすでに両親から多くの突然変異を受け継いでいるのです。
 これが私たちの現実であり、宿命のようなものです。

 私たちの遺伝子は、実は”問題だらけ”、被ばくによってできた突然変異は、たとえ重要な遺伝子にできたとしても、その他の多くの突然変異の一つでしかないのです。

「普通にがんになる可能性のほうがはるかに高いので、被ばく影響など無視できる」「すでに日常で環境や身の回りのものから放射線を受けているので、被ばくを特別に気にする必要はない」などと言われることがありますが、中高年の話をしてもしかたありませんし、普通や日常に紛れないリスクの増加があることが問題なのです。

 

被ばくによって将来がんになるという意味

 一般には、被ばくによってできる突然変異ががんのもとになるという誤解があります。まるでその一つの突然変異ががんを作るという感じですが、実は、がんは一つ二つの遺伝子の突然変異ではなりません。十個以上もの 重要な遺伝子がん遺伝子やがん抑制遺伝子と呼ばれる遺伝子のことです。これらの遺伝子は、正常な場合には、主に細胞分裂をコントロールする酵素を作る重要な遺伝子です。これらの遺伝子に突然変異ができて、正常に働けなくなると、がんへ近づくような働きをしたり、それを止めたりできなくなり、結果として細胞はがんに近づいて行くのです。
 がん遺伝子という名前は、「突然変異ができて、正常な働きができなくなると、細胞ががんに近づくような遺伝子」という意味で、”がんを作る遺伝子”ではありません。
の突然変異が必要です。

 がん関連遺伝子の突然変異の合計が十数個ぐらいになり、細胞ががんになる能力を手に入れたときに起こります。

 低放射線の被ばくによってできるのは、せいぜいがその中の1個です。100mSvの被ばくをしても、計算上は 1個の何分の1例えば、1個の1/10の突然変異ができると言う意味は、100mSvを10回被ばくすると、その中の1回は1個の突然変異ができるという意味です。または、10人が100mSv被ばくすると、その中の1人に1個突然変異ができる、という意味です。
 これが確率の考え方です。被ばく影響はすべてこのような確率で表されます。
 がんになる可能性が0.1%増加するというとき、その人ががんになる可能性が0.1%アップするので小さいという言い方がありますが、がんはなるかならないかのどちらかしかありませんので、意味がよく分からないでしょう。これは、被ばくした人1000人のうちの1人がそのせいでがんになる、と言い換えれば、具体的にわかります。
かの突然変異しかできません。

 「被ばくによって、がんになる可能性が高まる」という生物学的な本当の意味は、被ばくが、「がんに必要な十数個の突然変異のうちの1個を作る手助けをするかも知れない」という意味です。

 放射線がんとか放射線特有のがんなどという話はきっぱり忘れてください。1000mSvも照射するような実験でさえもそんな途方もないものはなかなかできません。
 検査被ばくによってできる、つまり被ばくが手助けするのは、「普通のがん」「日常のがん」なのです。

 実際にがんになるかどうかは、突然変異の数が十数個というリミットを超えるかどうかですが、リミットを超えなくても、数が多い方ががんに近いわけですから、がんの可能性が大きくなることは確かです。
 被ばくによって突然変異ができると、それだけがんの可能性がアップします。これが被ばく影響ということになります。

 「被ばくの影響というのは、被ばくによって突然変異の合計数が増え、細胞ががんに近づく」ということです。突然変異の合計数が増えたとしたら、それは影響があったと考えていいでしょう。
 しかし、それががんに結びつくかどうかは、別の問題です。実際にがんになるかどうかは、他の原因でできた突然変異がどれくらいあるかの問題です。たとえ放射線で突然変異が増えても、その他の突然変異がたくさんできなければ、がんにはなりません。


 突然変異が十数個もたまるのは時間がかかりますので、多くのがんは人生の後半になって起こります。
 放射線の影響があるというのは、被ばくしなければかろうじてがんにならなかったはず(つまり十数個というリミットを超えないはず)なのに、被ばくしたせいでその分上乗せされて、リミットをこえてしまいがんになったという場合のことを言います。それが被ばく影響が現れたということになるのです。

 たとえ被ばくによって突然変異ができても、結果として人生の終わりまでにリミットを超えない場合には、がんにはなりません。がんなどの問題が起こらないなら、遺伝子に突然変異があっても気にすることはありません。がんにならなければ、発がん影響はなかったということですね。


 被ばくによって遺伝的影響が出るという意味

 検査被ばくでは遺伝的影響は起こらないのですが、遺伝的影響(遺伝病の発生)についても考えてみましょう。
 生殖細胞卵子や精子を作る細胞を生殖細胞、その他のすべての体の細胞は体細胞と言います。
 生殖細胞はそのまま子供の体となりますので、その遺伝子はそのまま子供の体のすべての細胞の遺伝子となります。
の遺伝子1個の突然変異で遺伝病は発生する可能性があります。がんとは違い、たった1個でいいのです。

 被ばくによってできた1個の突然変異がそのまま病気を発症させる場合(常染色体優性遺伝病、X染色体性遺伝病)もあるし、発症する確率を高める場合(常染色体劣性遺伝病)もありますが、いずれにせよ、突然変異ができると、病気の可能性が高くなることはがんと同じです。 

 ですから、被ばくによって生殖細胞の 遺伝病遺伝子 親の生殖細胞の遺伝子はそのまま子供の遺伝子となります。正常なまま子供に渡されると、子供の体の中で正常に働き子供は病気になりません。しかし、その遺伝子に突然変異ができていると、その遺伝子は正常に働けないため、子供は病気になります。これが遺伝病です。突然変異ができたその遺伝子は遺伝病遺伝子と呼ばれます。
 がん遺伝子も同じです。もともとはみんな正常で重要な遺伝子ですが、それに突然変異ができるとがんに一歩近づく原因になるのです。
に突然変異ができてしまうと、それは子供に遺伝します。子供の問題(遺伝病やその他)の可能性がアップします。


 しかし、遺伝病というのは、被ばくによってできたその突然変異による遺伝病しかないのでしょうか?
 もちろんそんなことはありませんね。ご存知のように、被ばくしなくても遺伝病は起こっていますから。

 私たちは、突然変異を持つ遺伝病遺伝子を、すでに数多く持っています。 過去の世代で生殖細胞にできた突然変異は蓄積され、それを受け継いでいるためです。そして、私たちも突然変異を少し追加して子供に渡すのです。


 私たちの誰もがみんな、多くの突然変異を両親から受け継いでいます。すでに10個以上の深刻な遺伝病の遺伝子を持っていることがわかっています。
 それらが発症する条件が揃う確率が小さいため、実際に発症するのはまれですが、ある割合で遺伝病の子供が生まれているのは事実です。
 それはその子供が特別に問題遺伝子を持っているからというより、みんな持っている問題遺伝子がたまたま病気として現れたということです。当たるか当たらないかの確率の問題です。
 私たちはみんなそのような可能性を持っています。

 そして、生殖細胞遺伝子にあるそれら突然変異を全部子供に渡します。
 私たちは被ばくしなくても突然変異を持つ病気遺伝子(遺伝病遺伝子)を数多く子供に渡しているのです。 ちょうど私たちが両親からもらったようにです。


 突然変異を持つ病気遺伝子の数が遺伝病の可能性を決めますので、被ばくによってその数が増えると遺伝病の可能性がその分増えます。
 どんな病気遺伝子に突然変異ができたかでなく、合計でいくつの突然変異があるのかが問題になるのです。
 というのは、遺伝子の突然変異というのは基本的にすべて子孫に遺伝病(深刻なものから、わからないものまで)として現れる可能性を持っているので、突然変異の数で遺伝病の可能性が決まるのです。

 結局、がんも遺伝病も突然変異の数の問題なのです。


 蓄積する不利な突然変異

 人類は文明化、科学技術によって無数の変異原突然変異を作る原因になるもの。発がん物質など。を作り出し、ばらまいて来ました。

 がんが増加していることはご存知の通りです。
 体細胞にできる突然変異がいろいろな原因で増えているせいです。
 生殖細胞にも突然変異が増えつつあります。

 長々とご説明しましたが、

体細胞も、生殖細胞も、私たちの遺伝子には、突然変異が増え続けている!

という事実こそが、実は、このプロジェクトを可能にしている、最も重要な科学的事実なのです。

 

被ばくするという意味

 被ばくをしてもしなくても、突然変異はあるというのが遺伝子の基本なのです。 そしてあるだけではなく、常に作られ、増え続けています。

 

 私たちの遺伝子は、クリーンどころか、傷だらけ突然変異だらけです。

 突然変異のないクリーンな遺伝子に被ばくによって突然変異ができると想像していたかも知れませんが、実は、すでに傷(突然変異)だらけの遺伝子に被ばくによる突然変異が上乗せされる、というのが真実なのです。

 この、”すでに突然変異だらけ”は、私たちの日常生活によってつくられたものです。そしてこれからの日常生活で、さらに増え続けるものです。
 被ばくによる突然変異は、日常生活による突然変異に追加されるのです。

 

 ここで、普通にできる突然変異と放射線被ばくでできる突然変異は違うのでは?と思ったかもしれません。
 放射線による突然変異は普通の突然変異とは違って危険だとか、特別だとか聞かされてきたでしょうから、普通の突然変異による影響と放射線の突然変異による影響は別のものだと思っているに違いありません。

真実その1
放射線被ばくによってできる突然変異も日常生活でできる普通の突然変異も、違いはありません。
真実その2
放射線被ばくによる突然変異が原因で発生する病気も日常生活の突然変異が原因で発生する病気も、違いはありません。


 がんにせよ、その他の病気にせよ、そして遺伝的影響にせよ、
「被ばくによる影響は、日常生活による影響と同じもの」
というのが真実なのです。これは、「放射線は特別だろうか?」で詳しく検討していますので、ぜひご覧ください。

放射線は特別か?

 さらに病気ということを考えると、結果として、ある遺伝子がちゃんと働けるかどうか、変な働き方をしないかどうかだけの問題です。つまり、何が原因でできた突然変異なのか、どんなでき方をしたのか、どんな突然変異なのか、など関係ないのです。


 被ばくによって上乗せされた突然変異は日常生活によってできる突然変異と同じものと考えていいのなら、問題なのは「その全体の量(数)」ということになります。

 突然変異の量(数)が多いと、それだけ病気になる可能性が高くなります。

 被ばくリスクは、突然変異の合計数が増える可能性という意味なのです。

 

リスクを決めるもの

 がんは突然変異の数が多ければ可能性が高くなり、遺伝的影響も子供に渡す突然変異の数が多ければ可能性が高くなります。
 重要なのは合計数なのです。
 被ばくによる影響というのは、突然変異を増やしてしまうということです。

 そこで、突然変異の合計数を減らすことを考えたいのですが、この合計数、何によって決まり、問題になるのはどの時点の合計数なのでしょうか?これが分からないと対策できません。

 

 合計数はいつ数えればいい?

 これらの合計数が増えていると問題になるのはいつでしょうか?

 つまり影響が現れるのは、いつでしょうか?


 がんは、もちろん、がんになるかどうかですから、その本人ががんになる頃です。多くのがんではがんになる時期がだいたい決まっています。

 一方、遺伝的影響が現れるのは、遺伝病が発症するときでしょうか?
 いいえ、子供に遺伝子を渡す時です。
 「突然変異の合計数が増えたまま子供に遺伝子を渡してしまったら、それはすでに可能性を渡してしまったということになります。」

 実際に子供や子孫が発症するかどうか、どんな結果になるかは、どんな遺伝子に突然変異ができたかによります。全く問題にならない部分の突然変異かも知れません。ほんの少しだけ性格に影響するようなものかも知れません。髪の毛が少し薄い色になるのかも知れません。
 また、病気になる可能性を持つ部分の突然変異かも知れません。これらは結果ですから、今からは絶対に分かりませんが、突然変異を渡すということは、こうした何らかの可能性を渡すということです。すでに遺伝的影響を及ぼしたことになるのです。

 子供の代で判る場合も、2、3世代かそれ以上先にならないと判らない場合もありますが、子供に遺伝子を渡してしまったあとは、それが現れるかどうかは、確率の問題でしかありません。渡した時点で、可能性を与えたことになるのです。


 がんは「がんが起こる時」、そして遺伝的影響は「子供が生まれる時」の合計数が問題になるのです。その時に増えていると、影響があることになります。

 

 合計数は何によって決まりますか?

 みなさんが考えるのは、事故直後に少し大きな被ばくをして、その後低いレベルの被ばくが続き、この先もそれが続くという状況の影響です。

 突然変異は常に増え続けているというのが、私たちの現実ですね。その現実に対してこうした被ばくの影響はどのように働くのでしょうか。


 がんの場合は、「被ばく前にあった突然変異」、「被ばくによってできてしまった突然変異」、そして「被ばく後がんが起こる(がん年齢)までの日常生活でできる突然変異」の全部の合計が、がんの可能性を決める”合計数”です。

 同様に、「被ばく前にあった突然変異」、「被ばくによってできてしまった突然変異」、「その後子供が生まれるまでの日常生活でできる突然変異」の全部の合計が、遺伝的な問題の可能性を決める合計数です。

 

リスクを決めるもの

 リスクは合計数が決めます。合計数は、過去の突然変異、被ばくの突然変異、そしてこれからできる突然変異の合計数のことです。

 合計数を減らすことを考えましょう。どこから減らすことができるでしょうか?

 もちろん、すでにできてしまった突然変異と被ばくでできたかもしれない突然変異はどうにもなりません。減らせるのは、これからできる分です。

 私たちはこれから将来、ずっと突然変異が増えて行きます。お子さんも同じです。がんも病気も遺伝的影響も、これからできる突然変異が一緒になって将来の病気のリスクを決めるのです。
 特に子供の場合は、突然変異のほとんどがこれからできるのです。

 このことが被ばく影響のコントロールを可能にします。

 

がん

 被ばくによって、たとえ1個突然変異ができたとしても、残りの十数個は”他の原因”(ほとんどが日常生活から)によって、被ばく前と被ばく後にできなければなりません。被ばく後も 他の多くの遺伝子の突然変異ができてはじめてがんになるのです。

   (1)被ばく前にできた突然変異

 + (2)被ばくによる突然変異

 + (3)被ばく後にできた突然変異

 = 細胞の突然変異の合計数(がんのリスク)

 被ばく影響を考える場合、被ばくで1個増えても、がんになるまでに1個減らしておけば、被ばくしないのと同じですね。

 

遺伝的影響

 子供に遺伝子を渡すまでに、精子や卵子の突然変異は増えて行きます。そして、それら全部を子供に渡すのです。

   (1)被ばく前にできた突然変異

 + (2)被ばくによる突然変異

 + (3)被ばく後にできた突然変異

 = 子供に渡す突然変異(遺伝病のリスク)

 被ばくした後も増えて行き、それを含めて、子供に渡す突然変異が決まるのです。
 被ばくして1個増えても、子供に渡すまでに1個減らしておけば、被ばくしないのと同じですね。

 

 この論理が成り立つのは、被ばくしても、その後人生が続き、日常生活があり、その中で突然変異が増えて行くからです。これが人間の場合に考えなければならない最も重要な大前提なのです。マウスではわからない部分です。


 おそらく、これからも続く不安な日々を想像していたに違いありません。ところが、その日々があるからこそお子さんを救えるのです。これからの日常生活で減らすことができるのです。

 もし、被ばく後そのような”時間的な猶予”がない場合には、過去の被ばくによるリスクを低下させることは難しくなります。

 

生物学的介入

 私たちがおこなおうとしているのは、体の中で起こる生物学的なできごとを自分の力で変化させようとすることです。

 何もしないでいることもできますが、何かをしてそれを変化させることもできるのです。

 これまでのような被ばく影響を数字だけで考えている場合には、「被ばく線量=影響の大きさ」でした。
 被ばくするとすぐに遠い将来の影響が計算されましたね。
 これまでの計算に必要なのは、被ばく線量だけです。ですから、生活なんか関係ありません。あなたもわたしも、だれもかれもみんな同じことになります。

 被ばく線量だけで影響(リスク)の大きさが計算されて、何人が死ぬとか、たいしたことないとか、言われてきたわけですね。


 これでは人形ですね。被ばくすれば、そのまま何年経っても何も変わらず、その結果いくつかが壊れるというわけです。
 被ばくして、その後何かが起こるのをじっと待っているのです。

 

 いったい、この計算に生物らしいところはどこにありますか?

 みんな勝手にいろいろな生活をして、それぞれの人生を送って行くという人間らしいところがどこにもありません。
 比喩でも、単なる言葉でもなく、実際に生物学的な状況や内容がひとりひとり違い、さらに変化する、というのが「生物学的な人間らしさ」です。

 生活の内容によって、病気になったり、ならなかったり、食生活やライフスタイルによっていろいろなことが大きく変化します。私たちは毎日それを目の当たりにしているはずです。実際に体の中で起こる生理学的、生化学的なプロセスが大きく変化しているのです。

 被ばくしたのが現実の人間なら、その影響もこのような現実の人間に起こる影響でなければならないはずですね?このようなことを無視して人形のような人間を想定しても仕方ありません。

 

 このことが科学的な真実である証拠はいろいろあります。
 いわゆる被ばくリスクの計算のもとになっているのが原爆被爆者のデータなのですが、興味深い事実があります。
 被ばくすると将来のリスクが計算されます。ところが、その中に、実際のリスクが計算されたリスクより小さな人々がいたのです。実は、その人々は、被爆後に他の被爆者とは違う生活をしていました。それは、野菜果物が普通より多い食生活を送っていたのです。

 被ばくをしても、その後の生活によってリスクは変えることができる、という証拠です。
 そして、線量だけで計算するこれまでの被ばくリスクというものは、現実の人間のリスクを表していないということの証拠です。

 

 さらにもう一つの例は、皆さんにとって重要なデータとなるのですが、パイロットの方々のデータです。
 ご存知のようにパイロットは1万メートルの上空を飛行する間に宇宙から降り注ぐ放射線(宇宙線)を受けます。そのため、年間数mSvの被ばくをし、生涯の被ばく線量は数十mSv以上にもなります。
 普通に考えれば、そして計算上では、この人々にはリスクがあり、がん死亡率は普通の人々より高いはずですね。

 ところが、実際には、はるかに低いのです。

 このような明らかな被ばくをしていても、はるかにがんになりにくく、病気になりにくいのです。
 理由はこの人々のライフスタイル、生活の内容が違っているからです。詳細はprogramで)

 これらの例は、「過去の被ばくであれ、現在の被ばくであれ、それがどんな影響になって現れるのかは、その人の生活しだい」と言うことを実証しています。

 被ばくをしても、その後の生活によって影響は変えることができるのです。
 そして、これらの例を裏付ける十分な科学的な根拠があるのです。

 

 上に述べた人々は、このことを自覚して行ったわけではなく、それぞれに自分の生活をしていたところ、結果として影響が変化したのです。
 しかし、このようなしくみを知っている私たちは、この「被ばくしても、その後の生活で影響を変える」ことを意図的に実行することができます。


 生物学的なプロセスに対して、人為的な操作をして、そのプロセスを変化させることを「生物学的介入」と言います。
 <肥満 → 高血圧/心疾患/糖尿病>というプロセスに対して、「日常的にカロリーを減らし運動を続ける」という生物学的介入をおこなうことで結果を変えることができます。

 同様に、<被ばく → がん/遺伝的影響>というプロセスに対して、「日常的に突然変異の発生を少なくする」という生物学的介入をおこなうことで結果を変えることができるのです。

 これによって、被ばくから影響へのプロセスを変化させ、結果として影響をゼロにするのです。

 

私たちは変化することができる

 合計数が問題ですが、私たちが何かをすることができる余地があるのは、これからできる分に関してです。これからできる分から減らすことができれば、被ばくによって増えた分を減らして、合計数を被ばくしない場合のものに戻すことができるのです。


 この論理を現実的に達成するには、どのようにすればいいのかを考えましょう。

 まず、図のようにある時一挙に突然変異を減らすことはできません。なぜなら、すでにできてしまった突然変異を消すことになりますから現実にはありえません。

 

 現実に私たちがコントロールできるのは、これからできる部分です。図の「黄色点線」部分です。
 ここが重要なのですが、「すべての人が右肩上がりに増えて行きます。」

 これは毎日の生活によって傷ができ、そのせいで突然変異が少しずつ増えて行くということを表しています。
 普通の生活をしていくと、こんな風に突然変異が増えて行くよ、ということです。

 もしこの増加をストップできれば、下の図の「水色線」のように横ばいになり、いつか一般平均の線「青色線」と交わります。つまり、突然変異の数が同じになるのです。こうなると被ばくしなかったのと同じですね。
 しかし、水色の水平線は「新しくできる突然変異がゼロ」という意味であり、現実にはあり得ません。何しろ「生きていること=突然変異ができること」というのが私たち生物の宿命ですから。


 このように完全にストップすることはできませんが、「緑色線」のように、増加を遅くすることはできます。

 緑色線も緩やかに右肩上がりですが、それでもいつか青色の一般平均の線と交わります。

 それで十分です。私たちが目指すのは、この緑色の線を作りだすことです。

詳しくは、次の章の「影響のコントロール」をご覧ください。

▶ 影響のコントロール

 

 突然変異をゼロにするわけではありません。
 絶対にがんや病気にならないようにしたいとは言っていません。それは不可能ですし、今それを望んでいるわけではありませんね。みんなと同じように病気になってしまうのは問題にする必要はありません。”被ばくした私たちだけに”少し増えた部分が問題になるのです。

 私たちは、「被ばくによって増えた分を減らして、合計数が増えないようにしたい」、つまり「被ばくの影響を消去したい」のです。被ばく影響というのは、この差の部分なのですから。
 被ばくしなかった場合と同じ合計数にすることができれば、被ばくしなかったのと同じことになります。これが私たちの目標です。

 

 毎日の生活の中の何かを少し変えることで、私たちの体の中で微妙な違いが生まれます。それが何年か後には、目に見える違いになります。上で紹介した例の人々は、知らないうちに、これを実際におこなっていたのです。


  これまでは、「被ばくすると何もできずにいつか影響が出るのを待つしかない」とされてきました。
 何もしないでいると、被ばくによって増えた分は「いつまでも増えたまま」で、いつかそれが影響として出るかもしれません。それが不安の根源です。そしていつまでも被ばくした人です。

 これからは、何かをしてこのプロセスを変えるのです。 「生きている生物は、変化することができる」のですから。

 あなたのお子さんは変われるのです。

 
 さて、変化するために私たちがするべきことは、
「これからの日常生活において変異の増加を減らすこと」
です。

 そんなことができるのでしょうか?

 できます。

 具体的に言えば、突然変異を作る変異原を減らし、突然変異を防ぐ防御機能を高めることで、これからの日常生活で増える突然変異を減らすことは可能です。
 それが可能であることが分かってきたのです。

 

 いつまでに、それができればいいのでしょうか?

 それは問題が起こる前にできればいいのです。
 将来問題になる前に、”被ばくによって増えた分”だけ減らして帳尻を合わせることができれば問題になりません。なぜなら、被ばくによる健康上の問題は、突然変異の数できまるのですから。

 ちょうどこんな喩えがぴったりです。

 

マラソンの途中で妨害を受けて転んでしまい、大きく遅れてしまいました。その後、みんなと同じペースで走れば、いつまで経っても差は縮まりません。かと言って、瞬間的にみんなに追いつく魔法はありません。
 そこで、現実的にできることは、みんなよりすこし頑張って、少しずつ差を縮めることです。そうすると、いつかは差がゼロになってみんなに追いつき、追い越すでしょう。
 とは言うものの、「いつか追いつく」ではしかたありません。ゴールまでに追いつかなければなりません。


 ゴールである、「がんになるまでに」、そして「子供に遺伝子を渡すまでに」、少しずつ頑張って差を詰めて行き、最終的には追い越して、被ばくによるマイナスを取り返せばいいのです。

 

 この生物学的な論理を日常生活の中で実現するのが、「遺伝子を防御して、突然変異の増加を抑制する」遺伝子防御プログラムです。

 これは日常生活の中でしか実現できませんので、ひとりひとりがご自分で行う以外に方法はありませんが、実現可能なことなのです。

 あなたは、ご自分で子供の遺伝子を守ることができるのです。


 お子さんと一緒に、少し頑張ってみましょう。

▶「突然変異の合計数が問題」へ


日本低放射線協会について
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