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Project for Gene Protection for Children




然変異の合計数が問題

リスクを決めるもの
  

 私たちの細胞の遺伝子には、普通に生きているだけでも、たくさんの突然変異ができているということを知りました。
 さらに日常生活では、タバコは言うまでもなく、お酒、焼き肉、排気ガス、添加物、紫外線、放射線、みんな突然変異を作っています。

 突然変異は、私たちが文明生活を享受しているという利益に対して、支払わなければならない生物学的な税金でしょうか。
 進化の原動力となった基本的な突然変異の他に、現代人は膨大な量の突然変異を付け加えているのです。

 これが私たちの普通の状態です。

 被ばくすると、そこに放射線による突然変異が追加されます。
 すぐに影響が出るわけではありませんが、ただでさえ病気になるのに、さらに病気が少し増えるかもしれません。
 この増える部分が被ばくの影響(被ばくリスク)です。 私たちの目標は、この増えた分をゼロにすることです。

 

 放射線がやることは特別?

 このリスクをゼロにする論理の大前提は、
 被ばくによる突然変異と日常生活による突然変異が同じもの(区別ができない、危険度は同じ)である
 という事実です。
 これは、皆さんの持っている被ばくのイメージからいちばん遠いものかも知れません。

 遺伝子防御のしくみの理解は、ここからです。


 生きている以上は、突然変異ができるのはしかたないことは分かります。放射線も突然変異を作るので、突然変異が少し増えます。
 タバコなどと同じですね。

 では、放射線はタバコや酒、焼き肉と同じですか?

 いいえ、私たちはそうは思っていませんね。
 放射線によってできた突然変異は並の突然変異とは違い、何かとんでもないものであるかのように思っています。

 放射線は決定的な問題を起こすというような印象です。


 タバコは悪いと知っていても、吸っています。何となく分かるような気がするからです。悪いことも、”自分で分かる範囲の悪さ”という感じでしょうか。

 しかし、放射線というのは特別に怖い印象があります。
 原爆、チェルノブイリなどの怖い話などによって悪いイメージがあります。
 そして、特別に危険な作用があり、それは一生消えず、いつか深刻な結果になる、と思っていますね。
 放射線が、特別な発がん物質で特別な危険性があるのかどうか、この問題を科学的に一つずつはっきりさせましょう。

 

 遺伝子へのアクセス 

 まずどんな発がん物質でも、作用するには細胞のDNAのところにたどり着かなければなりません。
 この点では、放射線は特別です。
 普通の発がん物質は、細胞核の中のDNAまでいろいろな方法で移動しなければなりません。または、活性酸素のように 細胞内で発生酸素呼吸によってミトコンドリア内で発生するスーパーオキシドが主なものです。これは過酸化水素に変えられてミトコンドリア内で消去されるはずですが、いくらかはミトコンドリアから漏れ出て細胞内に広がります。またペルオキシソームで発生する過酸化水素もそこで消去されるはずですが、いくらかは漏れ出て細胞内に広がります。いずれも(活性酸素のひとつである)過酸化水素が細胞内を移動します。して、細胞核の中にあるDNAまで移動するなど、DNAのところまで行かなければなりません。
 ところが、細胞内を移動する必要はありません。放射線じたいが、体の組織を通り抜けて行き、その途中でDNAのところを通ったときには、DNAに傷を与えることができるのです。

 体内、組織内、細胞内を移動する必要はなく、弾丸が通り抜けて行きます。

 これは特別な性質といえます。

 そして、全身被ばくの場合、放射線は一度に体の”すべての"細胞のDNAに作用することができます。届かないところはありません。したがって、他の発がん物質があまり入って行けない細胞のDNAにも作用します。

 良い例が、甲状腺がん(甲状腺細胞)と白血病(骨髄細胞)です。
 これらは、非常に起こりにくいがんのNo.1とNo.2です(→popup罹患率)。非常に起こりにくいというのは、日常生活では発がん物質があまりないために、一生の間にがんになるだけの突然変異が蓄積できないということです。
 ところが、放射線は体のどこでもDNAに作用できるので、このような普通には発がん物質があまり来ない組織の細胞にも容易に突然変異を作ります。

 

被ばくと言えば白血病・甲状腺がん、と言われるのは、このような理由からです。
 どこの細胞でも突然変異を作れるという意味では、放射線は特別でしょう。

 

 傷の作り方 

 さて、DNAにたどり着いた発がん物質は、DNAに作用します。
 放射線の作用の仕方(傷の作り方)は特別でしょうか?

これも確かに特別です。

 分子の結合は、普通は化学反応によって切られます。これはエネルギーに基づいた電子の自然な移動による洗練された方法です。普通の発がん物質の作用は主に化学反応です。最も強力な活性酸素ヒドロキシルラジカルでさえ、DNAから水素原子を引き抜いたり、付加したりするのは化学反応によるのです。

 しかし、放射線は電子をはじき飛ばして、結合を物理的に切って(壊して)しまいます。このようなことができるのは放射線しかありません。この点は特別だと言えます。

 

 傷のタイプ 

 では、できる傷のタイプはどうでしょうか?
よく、放射線では二本鎖切断ができるので危険だ、という言い方がされますが、これは間違いです。
 放射線によってできるDNAの傷のタイプは、一般の発がん物質と同じように、塩基部分の損傷、一本鎖切断、二本鎖切断です。特別なことはありません。
 一般の発がん物質に比べれば、二本鎖切断の割合が多いのは確かで、そのためにこのように言われるのでしょうが、実際には二本鎖切断の量は(一本鎖切断+塩基の損傷)の1/50に過ぎません。
 しかし、修理が難しい傷ができることは確かです。高線量の場合やα線の場合には、たくさんの傷がまとまって起こるクラスター損傷が大量に発生します。γ線やβ線でも、少ないですが、クラスター損傷が発生します。
 しかし、ここが重要ですが、日常でも、小さな割合ですが、そのような修理の難しいクラスター損傷は発生しているのです。
 すなわち、放射線は特別感はあるけれど、日常で起こらないことを起こすような途方もない危険なものではありません。

 

 突然変異のタイプ 

 放射線は特別な突然変異を作るのでしょうか?
 できる突然変異のタイプは一般的なものですが、量が違うかもしれません。クラスター損傷からできる突然変異は少しややこしいですが、日常でも、小さな割合ですが、できるものです。そして、日常の突然変異の量は膨大なので、小さな割合でも、実際の量としては放射線によりできる量よりもはるかに多くなってしまうのです。
 たとえば、放射線に特徴的と言われる転座という染色体異常がありますが、これは日常的に私たちの体でも発生しているものです。被ばくすると「日常の転座に、放射線による転座が少し加わる」ということにすぎません。
 突然変異を見ても、それが何でできたのか分からないのです。だから、被ばくした人のがんの突然変異をどんなに検査しても、普通のがんとの違いは見つけられないのです。

 放射線の傷や突然変異は一生残るのでしょうか?
 放射線によるものであれ、普通の発がん物質によるものであれ、DNAにできた突然変異は一生残ります。(正確に言うと、その細胞が生きている限り残ります)
 違いはありません。

 

 ターゲット遺伝子 

 放射線が特に重要な遺伝子を狙い撃ちするということはありません。無差別であることが放射線の特徴だと言ってもいいぐらいです。
 放射線も普通の発がん物質も、どの遺伝子に突然変異を作るのかは全くの偶然ですから、この意味でも危険性は同等だと考えることができます。
 放射線を受けても、遺伝子の突然変異には違いが見つけられないのです。

 

 生体影響 

 その結果、生体への特別な影響があるのでしょうか?
 放射線の突然変異は日常の発がん物質が作るものと同じタイプですから、結果は一般の発がん物質による結果と同じものになります。特別な病気になる訳でもありません。
 被ばくによるがんは危険だとか、悪性になりやすいとか、被ばくが特に重篤な病気や遺伝病の原因になるという迷信のようなものがありますが、そのような事実は一切ありません。
 何よりもそのがんが被ばくによってできたがんなのかどうかが分からないのですから、調べようがないのです。被ばくした人々のがんも被ばくしない人々のがんも区別がつきません。日常で普通にできるがんと同じです。
 放射線の作用は普通の活性酸素の作用と同じですから、被ばくが関係してできたとしても、結果は普通のがんや病気なのです。
 そして、実験でも放射線だけでがんを作ることは難しく、必ずいくつかのがん遺伝子を事前に変異させておかなければなりません。そのような突然変異は、私たちの場合には、被ばくの前や後の長い年月の日常生活でできるものなのです。
 放射線じたいは人にがんを作ることはできません。日常生活が作るがんにほんの少し協力するかもしれないという程度なのです。

 

 以上のように、確かに放射線は透過性など特別な部分はありますが、生体影響という結果で言うと、普通の発がん物質と違いがない、ということになります。

 これまで放射線は安全か危険かというだけの空疎な議論しかなかったために、人々の理解レベルは低いままです。少しずつ生物学的な理解度を上げて行きましょう。上がるにつれて、リスクを生物学的にコントロールできることが確信に変わって行きます。

 

ここで、「いや、チェルノブイリではとんでもないことが起こったと言われているし、そんな報告もある。やはり放射線は特別に怖いのでは?」と思われた方も多いでしょう。

 起こったことは事実かもしれませんが、それは放射線が私たちの知らない特別なことをしているのではなく、特別に大量に被ばくしたからです。

 

 いろいろな角度から検討しましたが、放射線が作る突然変異は、日常生活の普通の発がん物質が作る突然変異と“同等”です。同等というのは、同じ危険性という意味です。

 

問題は突然変異の合計数

 放射線は特別に考えなくていいことがわかりました。

 私たちの遺伝子には突然変異はたくさんありますが、これまでの生活の何によってできたのかは分かりません。
 細胞の活性酸素、細胞分裂、免疫細胞からの活性酸素、食品添加物、紫外線、自然放射線、公害物質、排気ガス、タンパク質、脂肪分、薬、化学物質、そして、事故による放射線などによってできた突然変異です。
 被ばくしても、全体の合計数が問題になります。

 ある人が普通より突然変異が少し多いとすると、将来病気になったりする可能性が高いのでは?と考えますね。
 まさにその通りです。
 「病気や遺伝的影響を考えるときは、突然変異の合計数が問題」 なのです。放射線によって突然変異が増えたとしても、それは他の日常生活によって突然変異が増えたのと同じ意味になるということです。

 

 つまり、病気になる危険性(リスク)を考えるなら、放射線の突然変異はほかの突然変異と「置き換える」ことができるということです。
 (発がん物質によって9個 + 被ばくによって1個)できた人と、(発がん物質によって10個)の突然変異ができた人は、結果は同じだろうということです。

納得できないですか? 納得できない方に、分かりやすいそして反論できない証拠を示しましょう。

 がんは、がん遺伝子やがん抑制遺伝子と言われる特別な遺伝子に、突然変異が10個も10数個もできないとなりません。できた細胞からがん細胞になっていきます。

 わたしたちは常にこうしたがん細胞やがん細胞になりつつある細胞をたくさん持っています。それが現実です。これが私たちの「普通」なのです。

 さて、そんな私たちが被ばくしました。普通の人です。
 放射線は体のすべての細胞に同じように当たります。するともちろんそれらのがん細胞やその手前の細胞に当たりますね。「放射線が当たりやすい」細胞なんかありませんね。
 そうです。すでに突然変異がいくつもできている細胞にももちろん当たります。それどころか、必ず当たります。避けることができません!

 もし、その細胞にすでに突然変異がたくさんあり、あと少しでがん細胞が完成するとしたら、放射線はその”少し”をやってしまうかも知れません。被ばくすると、そんな普通にある細胞ががんになりやすいのは当然です。


 どうですか?このすじみちは避けることができませんね。

 いやが応でも、放射線の突然変異は他の突然変異と一緒になって働かざるを得ないのです!
 一般の発がん物質が作った突然変異と同じ細胞に同じように作用するしかないのです。
 放射線の突然変異は普通の発がん物質の突然変異と同じ意味なのです。

 

 重要なことは、日常の突然変異とひばくの突然変異もリスクという意味では同じだ、ということです。

 私たちの被ばく影響の理解は大幅に進み、リスクをコントロールできる準備が整いました。
 次に進みましょう。

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